今月の法話

■「大師は弘法に取られ、太閤は秀吉に取られる」【2018年6月の法話】

 

 先日まで、「寒い、寒い」と言っていたような気が致しますが、もう六月がやってくるわけでございます。恐らく、アッという間に十二月が来て、今年が終わり、また、次の年がやってくるのではないかと思います。

 さて、六月と言えば、私たちは当山の開祖であられます弘法大師空海さまの誕生月であります。ちょうど先月のGW明けに四国遍路の巡拝に行かせてまいりました。四国のお遍路巡拝はお大師さんが歩かれた地を私たちも御大師さまと同じように歩き、功徳を積ませて頂きたいということから、長年、多くの皆様が歩かれ、信仰されてきました。

 お大師さまは皆様ご存知の通り、中国、唐に渡り、真言密教を日本へ持って帰ってこられ、真言宗という宗派を開かれ、教えを広められました。今の私たちがあるのは間違いなくお大師さまのお陰であります。もちろん、一二〇〇年間絶えることなく、御大師さまの教えが続いてきた、この事実だけでも御大師さまの功績は素晴らしく、有難いものでございますけれども、私がお大師さまについてお話させていただくときに、特に声を大きくして皆様にお伝えさせていただきたいことが他にもございます。

 お大師さまは真言密教という教えを日本に持って帰ってこられただけでありません。中国から小麦、唐辛子、そしてうどん製法技術、また満濃池で知られる、香川のため池の土木工事の知識や技術も持って帰って来られました。このほかにも日本で初めての学校となる綜芸種智院を創設されたり、いろは歌を考えられて、文字の読めない民衆に教育されたりされました。私たちの今の生活、日本の文化の礎を築かれた方といえると思います。仏教だけでなく、教育、芸術、技術まで様々な分野で、我々衆生を救ってくださったというのが、お大師さまこと弘法大師空海さまでございます。

 お大師さまは「即身成仏、密厳国土、済世利人」を掲げられて、常に衆生済度のために尽くされてこられました。自分だけのためという小さな欲のために生きるのではなく、社会のため、人のために生きる、「大欲」を持ちなさいと言われました。私たちは常に弱い存在です。何か自分に不利益なこと、面倒なことがあると、どうしても自分だけのことを考えて行動していまいがちです。また、頭ではわかっていてもなかなか実践できないのもよくわかります。お大師さまは私たち僧侶に「我々真言行者は一生修行者である」と言われました。少しでもお大師さまに近づけるよう自分の行いは日々間違っていないか、また、言い訳ばかりしていないか、自分の日々の振り返りも兼ねて、また、皆様にもお大師さまのような心を持とうと思っていただきたくて、今月の霊峰を書かせていただきました。

 六月十五日(金)十一時より当山お大師堂にて、お大師さまの誕生を祝う「降誕会」法要を執り行いますので、お時間ある方はぜひ、お参りいただき、お大師さまのご縁に触れられてみてはいかがかなと思います。

合掌

(吉田大裕)

 

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