今月の法話

■「育て感謝の心」【2025年1月の法話】

 

 昨年十二月、三重県の自治体でカスタマーハラスメント(カスハラ)に関して、悪質な事例は氏名を公表するという条例案が市長によって議会に提出されたことがニュースに取り上げられました。この氏名を公表するという内容には、巷でも賛否両論の声が聞かれているようです。それに先立ち、東京都でもカスハラ防止条例が制定されています(本年四月に施行)。他にも、大手飲食チェーン店や各地の地方自治体で、カスハラ対応マニュアルが策定された、カスハラ防止啓発のためにポスターが掲示されたといったニュースも毎日のように見聞きしますし、公共交通機関や飲食店での悪質な迷惑客、自治体窓口での悪質な来訪者など、カスハラの具体的事案を取り上げたニュースは枚挙に暇がありません。サービス品質向上のためを名目に、企業が電話の通話内容を録音することは一般的になっていますが、これもカスハラ防止の一策でもあるのではないでしょうか。

 数年前、学校給食に関して、給食費を支払っているのだから食事の前後に「いただきます」「ご馳走さま」と子供に言わせるのはけしからんという保護者の意見があるということが話題になったことがあります。以前もこの法話コーナーで触れたことがありますが、食前の「いただきます」は命をいただくこと、天地の恵みに、食事が提供されるまでの多くの人の労苦に感謝をすることです。食後の「ご馳走さま」は、食事を準備してくれた方への感謝と敬意の気持ち。「馳走」とは、大切な客人を迎えるために馬を走らせて食材を調達すること、転じて「もてなし」や「もてなしのための食事」を意味するようなったといわれます。「いただきます」も「ご馳走さま」もサービスへの対価として発する言葉ではなく、感謝の心を表すものです。たとえ外食をした際に金銭を支払って食べるとしても、決して欠いてはならない言葉なのです。食前食後の言葉をきちんと言える人が飲食店で迷惑な客になることはまずないでしょう。

 昔から迷惑なお客さんはいたと思われますが、昨今これ程までにカスハラが横行する、カスハラが話題になるのはなぜでしょうか。とある調査では、その要因として、情報通信技術の発達、提供側のサービスの低下、社会の孤独化・孤立化、高齢化と高齢者の社会活動の変化をあげていますが、そうした社会の構造の問題ばかりではなく、人としての心の問題でもあります。スーパーなどで買い物をした時でも、店員さんに「ありがとうございました、またお越しください」と言われれば、客の立場であっても「ありがとうございます」の一言があると気持ち良いのではないでしょうか。金銭を支払っているのだから、税金を納めているのだから、サービスを受けるのは当たり前なのではありません。互いに感謝をする心が育てば、カスハラのような問題は無くなっていくと思います。

 令和七年は乙巳年、これまでの努力や準備が実を結ぶ年、一方で辛抱強さが試される年でもあります。皆様も育ててきた感謝の気持ちを大切に、またこれまで以上に多くの方に感謝の気持ちが育ちますように、良い年にしていただければと思います。

合掌

(日高 誠道)

 

 

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