今月の法話
■「転ばぬ先のありがとう」【2025年4月の法話】
四月は新生活の季節です。日本中で新たなスタートを切る人々が、希望と期待を胸に抱いていることでしょう。初めての職場や学校での生活を楽しみにしている一方で、新生活には期待だけでなく、不安も伴います。私も過去、進学のために地元を遠く離れた際に、期待と不安でいっぱいだったことを今でも覚えています。
変化が激しい社会の中で、どのように自分を適応させるか悩むことも少なくありません。特に昨今の日本では、メディアで報じられる政治や経済の問題が未来への不安を増幅させているように感じます。その不安や恐れがきっかけとなり、民意が怒りの方向へと向かっているのを日々感じています。
生きていると、思い通りにいかないことが多々あります。仏教の教えに「長い時間をかけて積み上げたあらゆる善業であっても、一つの怒りに駆られるとそのすべてを失ってしまう」とあります。実生活で、怒りによって損をした経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。普段はコントロールできているつもりでも、ふとした拍子にカッとなってしまい、それが後々自分を苦しめる結果になることがあります。ドラマやマンガでは怒りが前進する力(エネルギー)としてかっこよく描かれますが、実生活ではマイナスになることが多いのです。
怒りの感情と向き合うことについて、仏教では「忍辱(耐え忍ぶ)行」が取り上げられます。単に我慢しなさいという教えではありません。我慢は心身によくありませんし、長続きしません。まずは、怒りがどこから来るのかを理解し、知ることから忍辱行が始まります。怒りは自分の中から生じます。物事に対して不快を感じたその隙に生まれます。怒りの前に不快が起こるのなら、不快を感じないようにすれば良いのです。例えば、嫌なことは前向きに考え、理不尽にも感謝し手を合わすように、頭を切り替えることです。言葉では簡単ですが、実践してこその仏教です。時間をかけながらでも、自身の内にある脆弱さと向き合い、もし不快が生じた際は、怒りが出る前にまず、忍辱行で善業が積めると喜びましょう。
心を穏やかに変化させ、いろんな出会いと経験に感謝しながら、喜び溢れる毎日を過ごしていきたいものですね。
(小西 崚弘)