今月の法話
■「相互礼拝」【2025年9月の法話】
九月は毎年ローソク祭り萬灯会が開催されます。萬灯会も二〇〇一年のニューヨークで発生した同時多発テロをきっかけに世界平和・世界安穏を祈り、かつてのお大師様が行った萬灯会を宮島で開催させていただいております。ローソクに火を灯し、皆様の願いを祈ります。
最近は「多様性」(ダイバーシティ)が尊重される時代という言葉を聞くようになりました。簡単に言えば、人間一人一人の考え方、価値観を尊重しましょう。ということであり、仏教でいう「相互礼拝」の精神であります。仏教の「相互礼拝」の考え方を紹介したいと思います。
お大師様は金剛界曼荼羅と胎蔵界曼陀羅という二つの曼荼羅を唐より持って帰られました。その曼陀羅の中には数多くの仏様が描かれており、仏様の世界を表しています。この曼陀羅の中心にいらっしゃる仏様が大日如来です。大日如来の周りには多数の仏様が描かれております。これらの諸尊は全て「大日如来の分身」として、各々に役割が与えられ、違う仏様として描かれています。この「大日如来の分身」という考え方を元にお話しを進めます。
皆様も「物を大切にしなさい」と言われてきたと思います。皆様の身体を構成する細胞の一つ一つや、目の前にある物も原子レベルで大日如来が集合して、私たちの身体や身の回りのものを作っていると考えます。皆様は仏様を足蹴にするなど乱雑に扱われますか。同じように、これらが全て仏様でできていると考えると粗末にはされないと思います。この曼陀羅に描かれている多数の仏様も、各尊、配置されるべき場所は自分で選べたわけではないと思いますが、各々が配置された場所で、役割を持って、見事に輝かれております。私たちの暮らす社会でも、人はみんな違います。違いますが、全員この地球という大きな惑星に住む、大日如来という仏様の分身です。人の命に軽いも亡くなっていい命もありません。「多様性」という言葉が頻繁に説かれる時代になりましたが、このお大師様が説かれた曼陀羅こそ、私たちが大切にすべき教え、多様性の考え方そのものだと思います。「排除していいものなどありません」そしてそれは「自由」とも違います。しっかりと教えがあり、社会全体で丸く、調和した世界になるように各々が手を取り合って輝いているのです。これが「相互礼拝」という相手に敬意を持って接する考え方です。社会に出ても、人は皆「違い」を持っています。自分と違うのは当たり前です。それが違うからと貶すことはあってはならないことです。お大師様は私たち人間が仏様のように生きることで、密厳浄土という幸せな社会の実現を目指されました。私たちの心には三毒という貪りの心、愚かな心、怒りの心が存在します。これらの三毒を律して、仏様のように生きることで、心豊かな社会を築いて参りましょう。
(吉田大裕)