今月の法話

■「慈悲を以て本とし利他を以て先とす」【2025年8月の法話】

 

 例年よりひとあし早く暑くなりだした今年も、いよいよ本格的な厳しい夏へと移り変わってゆきます。年々暑さを増してゆくこの酷暑ですが、日本各地では気温が四十度を超す地域も増えてきております。

 さて、この夏で戦後八十年を迎えます。この広島でも二年前に行われたG7広島サミットの影響、また新型コロナ禍の規制が収まったこともあり、昨年の広島平和記念資料館の入館者数が過去最多の二二六万人を超えたとの報道を目にしました。近年未だ続き、また新たに発生している世界各国での戦争・紛争などが続いている中、よりこういった事実を伝えるものが重要になってきているように感じます。しかし、八十年という年数は当時経験された方々がお歳を召され、亡くなっている方々も多くいらっしゃいます。

 太古より、我々人間は生きていく上での生活の知恵や様々な事を子孫に遺し、より豊かな生活へと変えてきました。人間が発展していく中で社会の変化と資源を巡る対立が複合的に絡み合っています。初期の段階では、狩猟採集生活の中で平等な社会が形成されていましたが、農耕が始まり定住生活が始まると、土地や財産を巡る争いが起こるようになります。さらに集落が大きくなり国家が形成されると、より大規模な戦争へと発展するようになってきました。争いというのは過去幾度となく繰り返され、今この現代となっても未だ続く地域もあります。テレビやSNSが発展した現代において、昔に比べて善意はもちろん、悪意もあっという間に広がってしまいます。そしてそれらは簡単に争いの火種になってしまうのです。

 空海さまのお言葉に「慈悲を以て本とし利他を以て先とす」という言葉があります。人を慈しみ、悲しむ気持ちを持ち、人々に利益をもたらすような行動をすることが根本であるという意味を持ちます。これは日常で過ごす中でももちろんのこと、争いに発展しない為にも我々の心の根底に忘れずに思い続けなければならないことなのです。全ては自分を、家族を、他人を慈しみ思いやる気持ちが大切です。この八月、お盆を迎えることもありますが、まずは自分のご先祖様、故人に向け手を合わせ、思いやること、それが第一歩になるのではないでしょうか。

合掌

(江本康亮)

 

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