今月の法話

■「三力」【2019年7月の法話】

 

 先月の話になりますが、六月十六日に嚴島神社大鳥居をスタートして、廿日市市吉和のウッドワン美術館をゴールとした、「はつかいち縦断みやじま国際パワートライアスロン大会二〇一九」が開催されました。トライアスロンとは、一人で水泳、自転車ロードレース、長距離走の三種目をこの順番で連続して行う耐久競技で、一九七四年にアメリカで開催された比較的新しいスポーツです。このトライアスロン大会に約五〇〇人が選手として参加され、自分の限界に挑戦されたと思います。また、その選手の家族、友人、職場の同僚などの関係者や、頑張って競技に挑んでいる選手を一目見ようと、地元の方々が沿道に出て応援されたと思います。

 私事ですが、学生時代、陸上競技部に所属し、長距離種目を中心に部活動をしており、私もロードレース大会に何度か出場したことがあります。長距離走は自分自身との戦いです。前半は、コース上の景色を楽しんだり、自分と同じペースで走っている集団の中で走ることができます。集団の中で走り続ければ、他の選手のペースに合わせて走ったり、強風が吹けば近くの選手を風よけとして利用するなど、選手間での駆引きが生じ、上手くいけば体力を温存して、自分が思うところで勝負を仕掛けることができます。ですが、後半に差し掛かると予期せぬアクシデントやその日のコンディションによって、集団から離れ、一人旅になってしまうことがあります。私も後半一人旅になると、気持ちが折れそうになり、「もう無理かな~」と思うことがありました。そんな時に、沿道からの「頑張れ」の声を聴くと、折れかけていた気持ちが不思議と持ち直り、「もう少し頑張ってみよう」となり、しんどいながら無事に完走することができました。

 真言宗に「三力偈(さんりきげ)」という偈文があります。「以我功徳力(いがくどくりき)」、「如来加持力(にょらいかじりき)」、「及以法界力(ぎゅういほうかいりき)」というものです。直訳すると、私の功徳の力、仏の加持の力、及び法界の力という場所、環境、条件の三つの力が合わさることで物事が成されていきます。まさしく、沿道で応援している人は「如来加持力」を表し、一所懸命走っている選手は「以我功徳力」を表し、それを実践できる大会にエントリーされるということは、「及以法界力(ぎゅういほうかいりき)」を表します。そこには多くのドラマを生み人々に感動を与えることを表しています。いうなれば、自分から行動を起こした事を、他の人に助けてもらい、ご縁にもめぐまれます。その自他不二の力が森羅万象の大きな力とともにある時すべてと相互供養した真実の実相の世界が輝き、それそのものとなる。日々の努力を怠らず、神仏のおかげを忘れず、時が熟するまであきらめずに希望をもってお参りをさせていただきましょう。

合掌

(道正元裕)

 

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