今月の法話

■「言 葉」【2019年11月の法話】

 

 “この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば”

 皆様ご存知の方が多いとは思いますが、藤原道長が絶大な権力を持ち、絶頂期に詠んだ有名な一首ですね。去年二〇一八年十一月二十三日は、道長がこの歌を詠んでから丁度千年を迎えた日でもありました。

 短歌は和歌の一つ、五七五七七の五句三十一音の形式で創られる歌で、非常に古くから日本で詠まれています。人々の心情や世の情勢などを詠んだものが沢山あり、日本最古の和歌集『万葉集』には四五〇〇首以上の和歌が収められていると言われています。仏教の御詠歌などはこうした短歌に節を付けたものを指します。

 今現在、地球上に存在する言語は数千以上あると言われています。そのうち文字を持っている言語は四百程度と言われており、文字を持っている言語というのは圧倒的に少ないのです。日本でも古来、文字は持っておらず、一世紀頃に中国大陸にて制作された品に漢字が記載されていたものが伝わり、五世紀頃には日本で制作された剣や銅鏡などに日本の人名や地名が漢字を用いて記載されるようになりました。同時期に大陸の方から仏教と共に漢字が伝わり、その後漢字から仮名が作られ、今に至ります。

 宗教的な面からしても言葉・言語というのは非常に大切なもので、仏教の元はインドよりサンスクリット語という言語で中国へ伝わり、それが漢字に訳されて日本に伝わってきています。御経や仏教の教えなども全て言葉によって説かれ書かれています。

 また言霊(言魂)信仰というように、言葉には霊力が宿っており、言葉を口に出して述べることにより、その言葉に宿る霊力が発揮されると考えられてきました。古くから日本は言霊の力によって幸せがもたらされる国「言霊の幸(さきわ)ふ国」とも言われており、言霊に対する信仰も見られます。声に出した言葉が現実の事柄に対して何らかの影響を与えると信じられ、よい言葉を発すると良いことが起こり、不吉な言葉を発すると凶事が起こると考えられていました。事実、神道において神職が神様に奏上する言葉である祝詞は、こうした言霊に対する信仰が根底にある為、一字一句に丁寧で荘厳された言い回しを用いて、間違えることが無いように慎重に唱えられます。

 このように古くから日本人は言葉が持つ力というものを強く信じており、今でもよく強く望むことがあれば願い、思えば叶うなどと言います。良いことにも力を持つ言葉ですが、当然悪いことにも力を持ちます。他人に対しても同じですが、悪口や暴言を言わず、優しい言葉遣いや感謝の言葉、相手を思いやる気持ちを常に持ち続けて頂ければと思います。

合掌

(江本康亮)

 

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