今月の法話

■「道」【2020年6月の法話】

 

 自然科学が進歩する以前、自然災害や疫病の惨禍は、私たちの自然に対する畏敬の念と感謝の気持ちや、人としての道理が乱れ欠けたときに起こりうると考えられてきました。だからこそ自利利他を説く仏教の心や、自然と調和共存しようとする神道の教理・祭祀等によって、個々が共同体の一員であることを自覚し、さらに他と調和をもって立ち向かう連帯感を養い、他を思いやる深い心を養ってきたのです。

 約一二〇〇年前お大師さまが、この国で初めての私立学校となる「綜芸種智院」の建学にあたりその精神を説いた言葉として以下のことばがあります。
「物の興廃(こうはい)は必ず人による。
人の昇沈(しょうちん)は定めて道にあり。
大海は衆流(しゅる)によってもって深きことを致し
蘇迷(そめい)は積塵(せきじん)をもって高きことを成す。」

 すべての物事は、そこに関わる人によって栄え、また廃れるものである。人の歩むべき道は精進、思いやり、優しさ、智慧、によって昇沈が決まる。大海は幾筋もの小さな川が流れ込むことによって深みを増し、須弥山(仏教でいう宇宙の中心にある巨大な山)は砂や塵を積み重ね、億劫の時間をかけてその高さを築く。国家や民族のみならず、あらゆる組織の盛衰は、それを担う人々によって決まる。つまりこの世は人の力によってしか変わらないということなのです。だからこそ人が進むべく「道」というものが大切ではないでしょうか?それでは、「道」とは何か?

 『秘蔵宝鑰』(第二愚童持斎心)の中に以下の言葉があります。「儒教に説く人の人たる道を習い、仏教に教える善を慕い学ぶ。人の人たる道はとは仁、義、礼、 智、信である。仁を仏教では殺さないことと名づける。おのれの身になって 他に与えてやる。 義は他のものを取らぬことである。おのれのものを節約して他に与えてやる。礼は男女の道を乱さぬことである。人の世にはすべて礼儀によって秩序がある。智は酒に乱れぬことである。つまびらかに事柄を決定し、よく道理をとおす。信はうそをつかぬことである。いえば必ず実行する。この五つをよく行なえば四季は順和で、万物を構成する五つの元素が乱れざること鏡のように明らかである。」

 こんなときこそ先人が培ってきた精神性を深く再確認し、人の人たる道理を治めていくことが自然災害や疫病の惨禍から脱却する原動力となるのではないでしょうか?

 皆様に三鬼大権現様はじめ、仏天の御加護があらんこと切に祈るしだいでございます。

合掌

(酒井太観)

 

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