今月の法話

■「見猿・聞か猿・言わ猿・せ猿」【2020年7月の法話】

 

 皆さんが良く知っていることわざの一つに「見ざる聞かざる言わざる」がございます。もしくは、「見猿・聞か猿・言わ猿」の三猿の方が印象に残っているのではないでしょうか?

 これは、「他人の欠点や過ち、自分にとって不都合なことを見たり聞いたり言ったりしない方が良い」というもので、「弱点を突くような人、うわさ好き・口の軽い人など印象の悪い人にはならないように」ということです。

 当山の境内にも、「見猿・聞か猿・言わ猿」の石仏がございますが、栃木県の日光東照宮の境内にあります神厩舎(しんきゅうしゃ)の梁に彫られている物が最も有名です。日本語の語ろ合わせから、日本がその発祥と思われるかもしれませんが、三匹の猿をモチーフにすること自体は古代エジプトやアンコールワットでも見られるので、シルクロードを経由し、中国から日本に伝わったとされています。

 この三猿について調べてみますと、実は「四猿(しざる)」だったという説があり、中国や台湾には四匹一組の猿の像が存在しています。「見猿・聞か猿・言わ猿」はそれぞれ、両手で目、耳、口を塞いでいます。四匹目の猿は両手で股間を隠した姿で表現されています。これは「せざる(せ猿)」を意味し、その由来は孔子の「論語」の中に、「非礼勿視、非礼勿聴、非礼勿言、非礼勿動(礼儀に背くようなことをしてはいけない)」という教えがあり、四番目の教えが「節度の無い欲望」と結び付けられ、せ猿が生まれたようです。日本で四番目の猿が省かれてしまった理由については諸説あり、「四という数字が死を連想させて不吉であるから」という説や「性的な要素を匂わせる像は好ましくないから」という説があります。

 この四猿の教えから、「結局何もしない方が良い」という少し後ろ向きな教えに聞こえてしまうかもしれません。その中でも特に、「言わざる」、「せざる」について考えては如何でしょうか?「見る・聞く」はいくら注意しても防ぎきれるものではありません。一方で、「言わない・行わない」は自分で意識し、注意すれば防ぐことができます。自分自身が悪い物を見たり、聞いたりした時に、なりふり構わずにその発信源となって誰かに伝え広めてしまえば、他の人に迷惑をかけてしまいます。しかし、それを安易に信用せずに自分の中に留め、冷静に考え、「誰かに吹聴しない」、「節度を持った行動」をすれば、他の人に迷惑をかけることはありませんし、傷つけることもありません。

 今世間でも問題になっているSNSによる風評被害なども「見猿・聞か猿・言わ猿・せ猿」を意識すれば、必ず正しい判断をする事ができるでしょう。

 当山へのお参りの際は、是非この三猿を探してみては如何でしょうか?

合掌

(道正元裕)

 

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