今月の法話
■「下座行」【2021年4月の法話】
そもそもお坊さんと言えば、仏様を拝んだり、お経をあげ供養したり、と思われますが、もちろんそれらも大事です。しかしそれよりも前に、とにかく掃除をして、身の回りをきれいにしなさいという仕事に「下座行(げざぎょう)」というものがあります。「下座行」とはもともと、人より一段低い位置に身を置き、不平不満を表さず、己を磨く修行とされてきましたが、お坊さんの間では掃除を「下座行」として毎日の生活に取り込み実践しています。毎日掃除をする事により環境をきれいにすると同時に自らの心のホコリの掃除をしている事にもなります。
ある日、朝お寺の長い階段を掃いていますと、お参りに来られた方に「おはようございます。いつもありがとうございます。」と挨拶されました。私は一瞬にして心の塵が落ちた感じを受けました。と同時にお参りに来られた方も、きれいに掃き清められた参道に、心は和み、落ち着いて、すがすがしく仏さまにお参りができ、ありがたい空気を感じ取れたのではないでしょうか。その参道のたたずまいそのものが言葉ではない説法だと思います。それだけ掃除する事で環境を整える事が大事だともいえます。古くから掃除を学校や芸事や仕事の世界でも集団生活の中で取り入れ組み込んだ先人達も感服できます。
お大師様の言葉の一文に「境(きょう)は心に随(したが)って変ず。」「心垢(けが)るる時は即ち境(きょう)濁(にご)る。」心が貧しい時は環境(家の回りや、部屋の中)はみだれる。環境が良いところでは、心も穏やかで居られる。心は環境(掃除)によって決まりますと教えています。ちょっと心が痛いです。今、天災、人災、コロナ禍の中駆け巡り慌ただしい日々がまだまだ続きますが、「下座行」によって身の回りの環境を整え少しでも皆さんが穏やかに前向きな心で過せるよう実践されてはいかがでしょう。
(三松 庸裕)