今月の法話
■「「魔」に負けると、大切なものを失う」【2021年6月の法話】
弘法大師空海が執筆された『秘密三昧耶仏戒儀』の一文に「邪見を発起すべからず、善根を断ずるがゆえに」という言葉があります。「邪見」は、因果応報を理解せずに悪い事を平気ですることです。「善根」は、これまでに積んできた善行のことです。
昨年の九月にNHKの大河ドラマや数々の映画に出演したことのある有名な俳優が「大麻取締法」違反の疑いで逮捕されました。同年十二月の裁判で起訴内容を認め、懲役一年、執行猶予三年の判決が言い渡されました。今年の四月に週刊誌のインタビューに応じた内容の記事が発表されました。本人も「自分がやっていることが違法であると認識していた」と答えています。
いけないことだと分かっていながら、誤った行動や判断をすることを「魔が差す」といいます。周囲から真面目で信頼あると思われている人が、万引きや横領などで捕まったというニュースが後を絶ちません。長年頑張ってきた仕事や社会的信頼というのは、たった一度の過ちで失ってしまうことがほとんどです。しかし、「魔が差した」とか「つい出来心で」というのは、やってしまったことの言い訳にはなりません。
「魔」とは、仏教では欲望の世界を支配する魔王のことで、人の心を惑わし修行の妨げてくるものです。お釈迦様も坐禅の修行中に思念の中へ性欲などの魔王が何度も襲われました。それと戦い、打ち勝ち、悟りを開かれました。
たった一度の過ちで、今まで築いてきた物は一瞬で崩れてしまいます。「魔」が忍び寄ってきたら、振り払う勇気を持ちましょう。それが難しい時は当山へお参り頂き、三鬼さんやお不動さん達の力を借りて追い払いましょう。大切なものを失ってからでは遅いのです。
合掌
(道正元裕)