今月の法話

■「気づけるか、気づけないか」【2021年10月の法話】

 

 日本には美しい四季があり、春、桜の季節にはピンク色に咲き誇る花をじっくりと楽しみ、これから深まる秋、紅葉の季節には赤や黄色に色づく葉を愛でる美しさがあります。しかし自然の美しさとは、そのような移り変わりの中にばかりあるのではありません。何も変わらないところにもじつは自然の美しさは存在しています。仏教の言葉に「松(しょう)樹(じゅ)千(せん)年(ねんの)翠(みどり)」というものがあります。松という樹は千年経っても変わらず緑色で生き続けているという意味でこれだけでは松のすばらしさを説いているように感じますが、これにはさらに「不入時人意(ときのひとのこころにいらず)」と続きます。「松は千年経っても緑色を変わらずそなえているが、そのすばらしさに人々は気づかない」と言っているわけです。目の前にどんな見事な松の樹があったとしても、その存在に気づかなければ、そしてその存在に気づいても「ものの価値」を理解する心が備わっていなければ意味がありません。私たちの人生にも似たような側面があるのではないでしょうか。たとえば世の中で成功した人の中には、「自分は運が良かった」と言う方がいます。きっとそれも事実なのでしょうが、それ以上に、巡ってきたチャンスに気づき、その価値を理解し、生かそうと思ったからこそ、一つの成果を得られたのだと思います。満開の桜や見事に色づいた紅葉の葉の美しさを愛でる人は大勢いますが、庭にひっそりと立つ松の樹のすばらしさに、どれほどの人が気づき、その価値を理解しているでしょうか。松の樹であれ、人生の好機であれ、その存在に気づけるか、気づけないかで、その人の人生は大きく変わってしまいます。もし「チャンスをつかみたい」「気づける人になりたい」と思うなら、日頃から細やかなことを意識して、注意深く目を配ることが大事ではないでしょうか。

 電車に乗ると、お年寄りや妊婦さんや子供が乗ってきた瞬間に、素早く気づき席を譲る人や、食事処などで注文する時に、同席する人に「何か、苦手なものありませんか?」とさりげなく聞けるのも、細やかな感性が成せる技です。そんな些細なところを意識することで感性は磨かれます。

 昨年に引き続きまだまだ我慢の時が続きますが、だからこそ周りを注意深く観察してみてください。きっと「気づける人」「気づけない人」がいろいろな場面で発見できるはずです。そしてみなさんも「気づける人」になりましょう。

合掌

(三松庸裕)

 

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