今月の法話
■「知(ち)足(そく)」【2021年5月の法話】
今年も春が開け、新緑が映えて来る頃となりました。五月も新緑や晩春などといった様々な時候がございますが、近年の気候を鑑みるに初夏や立夏といった言葉の表現が合うように思います。
五月の花と申しますとツツジやフジがあり、当院の境内にもたくさんのツツジ、サツキが生えております。ツツジとサツキで少し変わってきますが、ツツジの花言葉は「節度」。サツキは「節約・節制」という意味を持っております。特にサツキは山奥の岩肌や渓流沿いの岩肌などの厳しい環境を好んで生息し、自然の厳しさに耐え花を咲かせる事に由来するといわれています。節度をもって、節制節約を、と昔からよく言われている言葉ですが、このコロナ禍になり、より一層使われる機会が増えたのではないでしょうか。
そもそも何を節し、何をもって良し悪しの判断をするのか。育ってきた環境の違い、価値観の違いにより人はみなそれぞれその“節度”の基準が変わってきます。節度、節制、節約、これらを破る原因となるのは煩悩なのです。私たちの生活には欲というものは必ず存在します。生存欲・食欲・睡眠欲・・・たくさんの“欲”がありますが、これらの欲というのは生きていく上で必要なものです。幸せな人生、自分の目標へ歩もうとするならば欲なくしてはできません。しかし、この欲は限りなくあり、新しく増えてゆきます。この際限なき欲はやがて煩悩へと変化していきます。欲に溺れ、節度を忘れた先には煩悩に包まれ災いがもたらされます。欲を持って生きる中で、今の幸せで満足するというのは大変難しいです。お釈迦様のご臨終の模様を描かれたとされるお経に「諸々の苦しみをまぬがれたいなら、知足を学びなさい」足ることを知らない者はいくらお金がたくさんあったとしても、たくさん物があり裕福だとしても苦しみはあり、心は貧しいのだと説いておられます。多くを求めすぎず、今過ごしている現状に満足して“ありがたい”と感謝の気持ちを持つことが大事になるわけであります。
現代の私たちの生活は衣食住、どれも豊かになってきているのではないかと思います。豊かであるからこそ、足ることを知る精神「知足」を心がけ、忘れない様に心豊かに生活して頂ければと思います。
(江本 康亮)