今月の法話

■「未来につなぐために」【2021年9月の法話】

 

 今年の夏も暑く、残暑も厳しい日々が続きました。全国的に最高気温が三十度を越えるのも当たり前のようになり、三十五度を越して四十度近い気温を観測する地点もあるくらいです。しかし振り返ってみますと、それはせいぜい、ここ二十数年くらいのことです。私が子どもの頃は、最高気温が三十度に達することはあまりなく、夏場の炎天下でも遊びまわっていたものです。“熱中症”という言葉もあまり聞かず、当時耳にするのは“日射病”(強い直射日光による熱障害のこと)でした。我が子の世代の子供たちが大きくなる頃、この先の気候は一体どうなっていくのか、不安と恐怖が募ります。

 永い地球の歴史を考えた時、わずか二十数年程度で気温がこれだけ上がっているというのは恐ろしいことです。そうしたなかで、洪水・冠水などの豪雨災害、土砂災害など異常な気象により、様々な災害も毎年のように各地で起こっています。気温の上昇も、それによる異常な気象も、様々な災害も、私たちが便利な生活を享受してきた代償と言えるのではないでしょうか。どこかで起こった災害も決して他人事ではなく、いつどこで起こるかわからない、そのための備えも必要であります。しかしそれだけではなく、ある場所で起こった災害、それが私たちの享受している便利な生活の代償であるならば、私たち全てのヒトにその責任がある訳です。そうした意味でも決して他人事ではないのです。

 だからといって、今更この便利な生活を放棄することはできません。暑い夏に冷房も扇風機も一切使わずに過ごすことはできません。それこそ熱中症になってしまいます。でも、災害が起こった場所のこと、そこに住む方々のことを少しでも考えた時、「暑い、暑い」と言って何も考えずに冷房の電源を入れることができるでしょうか。ガンガンに部屋を冷やして、それが快適と言えるでしょうか。何も考えずに電源を入れるのではなく、また温度設定を考えるなど、使わせてもらうという謙虚な気持ち・感謝の気持ちが必要です。もっと言えば、詫びる気持ちも必要かも知れません。

 我が家では、いつもはリビングで夕食をとりますが、今年の夏のある日、妻の提言で風通しの良い庭先にレジャーシートを敷いて食事をとることにしました。屋内で扇風機をかけて過ごすよりも涼しく、天然の風の心地良いこと。今まで、この心地良さになぜ気付かなかったのだろうと話しました。時には、今まで享受してきた便利な生活から少しばかり離れてみるのも良いのではないでしょうか。古の形に新たな発見をしました。

 一人のちょっとした考えや行動で環境を変えることはできないでしょう。でも、そう意識した人は無駄な使い方はしないはずです。そして、そうした意識を持つ人が増えれていけば、少しでも環境を変えていくことはできるでしょう。「ああ暑い」と思った時、電源を入れようとしているまさにその今、少し手を合わせて考えてみてください。私たちは子どもたちが過ごす未来に大きな責任があるのですから。

合掌

(日高 誠道)

 

●2021年の法話(バックナンバー)


●2020年の法話(バックナンバー)