今月の法話
■「発心(ほっしん)」【2022年5月の法話】
新型コロナウイルス感染症が日本で流行し始め早二年が経ちました。この二年間これまでより時間がとれることが多かったため、運動も兼ねて弥山に登ることが増えました。毎回大聖院コースで上がり、三鬼堂で勤行を行い、日々の無事と早期終息を御宝前にて祈願致しました。
登山というものは不思議なもので、登り始めた頃は、まだ体が慣れてないからか「まだまだ道のりは長いなぁ」「しんどいなぁ」と登り始めたことを後悔するときもあります。
しかし、ゴールが見えてくると、段々、疲れも吹き飛び、爽快感が沸き上がり、ゴール後は必ず「登ってよかった。また登ろう!」と達成感に満ち溢れています。
いつも登っているおりに、山の空気を吸うことで、この霊山の木々、川の水、太陽の光などが持つ大自然の恵みを五感で感じ、自然が解き放つ澄んだエネルギーがからだ中に巡らされて、手足の先まで細胞の一つ一つが喜びを感じているような感覚を受けています。三鬼大権現の威光を感じ、自身の体が五体満足で健康で常にいられることに感謝の念がこみ上げてきます。登り始める頃、少し元気がなくなっていた自分の心の灯火が十八丁目の仁王門を超えて、霊火堂が見えてくるころには「また今日も一日頑張ろう」とめらめらと燃え上がる炎になっています。
コロナ禍になり弥山に登る度に、皆様の心にも灯火は宿っていて、コロナ禍で特に疲弊した心の灯火になんとか燃料を送り、皆様の心も元気になって頂くお手伝いはできないものかと考えておりました。
そんなある時、ご縁を頂きまして、マツダ㈱のデザイン部の方々にこの「灯火」について当山の「消えずの火」とコロナ禍で疲弊した我々人間の「心の灯火」についてお話をさせていただく機会がありました。一二〇〇年前に弘法大師空海さんが唐より真言密教を日本に持ち帰り、人々の幸せを願い、立教開宗の念を込めて修行されたこの弥山。その日より今日までお大師さんの御教えとなり、灯され続けた「消えずの火」。現在、コロナ禍で様々な分野で元気がなくなっているこの世界に、宮島弥山からなにか元気になれる、「自灯明」をもう一度しっかり灯して頂くようなことができないものかと。
不思議なことに日々の想いが様々なご縁をつなぎ、マツダ㈱だけではなく、マルニ木工さん、お墓の日光さん、広島市立大学の共創ゼミの学生さんと広島のものづくりに携わる企業や学生の皆様がご縁に導かれ、モノつくりに懸けてこられた情熱の灯火をこの度この困難な時代にみんなで支えあって生きようというメッセージを込めて、「消えずの火」を灯す「灯火台」と「大香炉」を弥山霊火堂に奉納していただくことになりました。
「一人でも多くの方の心に、少しでも真の灯火が灯りますように」宮島弥山空海生誕一二五〇年記念事業ここに開白致します。
(吉田 大裕)