今月の法話

■「法悦」【2022年7月の法話】

 

 千二百年以上、その法灯を護り続けている弘法大師・空海上人ご修行の地、宮島弥山山頂近くにある「消えずの霊火堂」では、毎月二十八日不動尊のご縁日に「弥山不動会」と称して護摩祈祷を、その後、弥山三鬼堂にて三鬼大権現祈祷を修しています。ご祈祷の最中には、ご参拝の皆さんと一緒に般若心経をあげ、ご真言をお唱えします。ご祈祷後には、皆さんと共に風通しの良い三鬼堂の回廊で、瀬戸内の島々を眼下に昼食のお弁当をいただきます。

 五月の不動会の日はとても天気が良く、麓から登山コースを歩いて来られた方はもちろん、ロープウェーから山道を歩いて来られた皆さんは、霊火堂に到着する頃、額に背中に汗をかいておられました。そうしたなかでも、皆さんは一心に手を合わせ、お経をあげられます。護摩祈祷を終えると、消えずの霊火にかかる大茶釜で沸かした霊水をいただきます。皆さんは「今日もおいしい」と言って、小さな紙コップ一杯の霊水を口にされます。霊火堂の霊水は『万病に効く』と言われており、いつでもお飲みいただけるようになっていますが、護摩祈祷を修し、一心に手を合わせ、一心にお経をあげた後の一杯は格別なのでしょう。

 続いて三鬼堂でご祈祷をあげますが、この日のご祈祷の終盤、皆で般若心経をお唱えし、三鬼大権現のご真言をお唱えしていると、言葉にできない程に心地良い風が『すぅー』とお堂の真ん中を吹き抜けていきました。この日ご参拝いただいた皆さんが共に体験したことです。汗を流してお参りし、一心に手を合わせ、一心にお経やご真言をお唱えした時に全身の肌で感じた心地良い風。三鬼堂の扉の外に目をやると晴れ渡る青空、眼下には澄んだ瀬戸内の青い海と緑の島々。遠くには微かに見える四国連峰。初夏を告げる鳥のさえずり。ご祈祷の後、いつもですとご参拝の皆さんにお話しをするのですが、こんな雄大な景色をそばに、この心地良い風を、自然の音声(おんじょう)を感じた時、どんなに気の利いた良い話をしようとしても敵わないと思いました。この風こそが何よりもの説法、弥山の諸仏の教え、三鬼大権現の教えであると。感じたそのままをお話しました。弥山の諸仏も三鬼大権現も、皆さんの参拝に随喜し、また参拝の皆さんもその法悦に浸ることができたのではないかと思います。

 何気なく日常を過ごしている時には、気に掛けることもなかったかもしれない風。参拝し手を合わせることで気づくことができた心地良い風。何事においても、喜びは常に身近にあるものです。それに気づくことができるか否か、それだけで何倍も良い一日を過ごすことができるのではないでしょうか。

合掌

(日高 誠道)

 

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