今月の法話

■「前(ぜん)後(ご)際(さい)断(だん)」【2023年1月の法話】

 

 新年あけましておめでとうございます。今年も新しい年を迎え、新型コロナ禍も未だ続いている中ではございますが、今年こそは初詣へ、と社寺へ行かれた方も多いと思います。今年の干支は癸卯(みずのと う)といい、寒気が緩み、萌芽を促す年と言われています。十干の最後にあたる「癸」は、生命の終わりを意味するとともに、次の新たな生命が成長し始めている状態を意味しています。「卯」は穏やかなうさぎの様子から安全、温和の意味、また跳躍する姿から「飛躍」「向上」を象徴しています。

 さて、今年の干支のうさぎというのは前に進むのは得意でも後ろに下がるのがとても苦手な動物です。中には全く後ろ向きには進むことができないという動物もいます。行動に限った話ではないですが“時の流れ”というのは後戻りができない事柄の筆頭ではないでしょうか。曹洞宗の開祖である道元禅師が正法眼蔵という書の中で「前(ぜん)後(ご)際(さい)断(だん)」という言葉を記していらっしゃいます。簡単に申しますと前際(過去世)と後際(未来世)は断ち切れており、過去は過去、未来は未来と考えすぎずに、今を精一杯生きなさいと言うことです。

 しかし、このように簡単に申しますが、それができたら我々人間苦労しない、という事は生きている上で沢山あると思います。独身の方、結婚してお子様もいらっしゃる方、ご年配の方に限らずです。これから先をどうしようかと考えが堂々巡りしたり、過去を悔やむ気持ちが忘れられなかったりと考え出したらキリが無いですよね。考えすぎないようにと言われても考えてしまうものです。

 我々に今できることは限られています。過去をどれだけ悔やんでも、後悔しても何もできません。逆に今頑張ればそれはいつの日かの過去になり、自信になり良き思い出となります。未来も同じです。不安や悩みもありますが、そればかり考えていては何も始まりません。今できることを少しずつ、今を一生懸命生きてゆけばやがて道が見えてきます。後戻りすることはできないのです。悔いの残らないよう一日を大切にお過ごしくださいませ。

合掌

(江本 康亮)

 

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