今月の法話
■「当り前のこと」【2023年2月の法話】
二月に入り、朝は寒気が一段と冷え込み、布団から出るのに思い切りがいる季節でもあります。朝鐘を撞くときに空を眺めると、夜明けが少しずつ早くなっているのを実感します。春が近づいていますね。
二月の節目を向え、今年も新しく一歩を踏み出そうと考えている方も多いと思います。たとえばあなたが「生きる上で、一番大事なことは何ですか?」と誰かに尋ねたとしましょう。すると、その人が「一生懸命やることです」と答えたとします。そのとき、あなたはどう感じるでしょうか。もしかしたら「そんな当り前のこと言われたって…」「もっと奥深い、本質的なところを教えてほしいのに…」と感じるかもしれません。
仏教の教えの中に「七(しち)仏(ぶつ)通(つう)戒(かい)偈(げ)」というものがあります。唐の時代の詩人、白楽天が道林禅師に教えを問います。「仏教の根本の教えとは何ですか?」すると禅師は「悪いことはせず、良いことだけをしなさい」と答えます。それを聞いた白楽天は「そんなことは三歳の子どもでも知ってます」と言う。そこで禅師は「三歳の子どもでも知っているが八〇歳の老人でも行うことは難しい」と返します。その言葉を聞き、白楽天は真意を悟ったそうです。
ここで言う「悪いこと」とは、単に法律を破るとか、人に迷惑をかける、ということに限らず、「自分勝手な行動を取らない」「執着する」「他人を妬む」など、さまざまな要素が入ってきます。このような「悪いこと」しないというのは、一日かけて、一ヶ月かけて、一年、十年といろいろな経験を積むと実践するには老人にもむずかしいのですね。改めて自身の行いを顧みる気持ちになります。
もしみなさんも「当り前のこと」を教えられたときに「何だ、そんなことは当り前じゃないか」と軽んじ、真摯に受けとめようとしない人と、「そうか、そんな基本の中に、大事なことがあったのか」とその価値に気づき、自らの行動、考え方を改められる人とでは、その後の人生は大きく変わってくるでしょう。
そもそも大事な答えは、そんなに複雑で、難解なものではありません。むしろ、シンプルで、当り前のものばかりです。しかし、その「当り前」を実践できるように一生をかけて、自らを磨き続けなければなりません。
もしみなさんも「どのように生きるべきか」と迷うことがあったら、ぜひとも当り前を大事にして、執着心を捨て、自然体で、丁寧に一日一日を感じていただきたいと思います。
(三松 庸裕)