今月の法話
■「休まず一歩一歩」【2023年9月の法話】
今年の夏も猛暑、酷暑で大変暑い夏でした。九月に入り、少しずつ暑さも和らいでいく季節となっていきます。
弥山で仕事をしておりますと、来山された方によく、ロープウェイを降りて山頂を見あげると「ああ、あんな遠くまで歩かなきゃいけないのー」と圧倒され、やる気を削がれてしまいました、と言われる事があります。そんな時、「頂上を見ず、横の景色を眺め、足下を見つめて一歩一歩と歩いたらよいですよ」とおすすめします。仏教の中の悟りの境地とありますが、「悟りたい、悟りたい」「あそこにたどり着きたい」「到達したい」と、まるで山の頂上を仰ぎ見るように目指していくものではありません。どちらかと言えば、日々の普通の日常をしっかり生きることが大切で、一歩一歩の積み重ねによって気がつけばいつのまにか悟りに到着し、その時にはそれにすら気づかず、また一歩一歩進んでいくことが境地というものの本質だと思います。修行僧にとって「歩く」とはまさに修行そのものであり、立ち止まることなく、ただ歩き続ける、そんな生き方があらゆる人に必要なのだと思います。それは、実際に歩く行為ではなくても、学び続けることであったり、仕事を続けることでも同じ。究極を極めるために、努力を怠らず、自らを研鑽し続けるということにもつながるでしょう。みなさんも生きていく中で目標をたてますね。「この学校に入りたい」「こんな会社に入りたい」「こんな役職につきたい」「こんな仕事ができるようになりたい」「こんな人間になりたい」「こんな暮らしがしたい」とイメージしてモチベーションを上げていきます。本当に大切なのは、その為には足下を見つめ、一歩一歩、休まず歩き続ける事です。
ときにはそれは退屈で、平凡で、我慢の日々かもしれません。しかし、その積み重ねにこそ、本当の学びがあり、そうやって歩き続けることで、知らず知らずのうちに「すばらしい結果」にたどり着いているのです。しかしそれがまたスタートとなって一歩一歩進んでいくのでしょう。
(三松 庸裕)