今月の法話

■「徳」【2023年8月の法話】

 

 ニュースというものは、良い出来事よりも事件事故などの悪い出来事の方がより話題になりやすいように思います。それは私たち民衆がスキャンダラスな話題をより好んでいるせいなのかもしれません。

 最近では、芸能人の話題として大物歌舞伎俳優の事件が大きく取りざたされました。今回の事件で、その名跡の断絶までもが危ぶまれているとのことですが、事件を起こすまでは、歌舞伎という日本の伝統芸能を護りつつ、先代から引き継いだ斬新な「スーパー歌舞伎」をも手掛け、また歌舞伎の舞台に留まらず、テレビドラマや映画にも出演してきた正しく大物俳優です。彼がこれまで長い年月をかけて積み上げてきた功績は素晴らしいものです。しかし今回の一件で、その功績すべてが崩れ落ちてしまったようで、とても残念でなりません。

 そうしたことは、私たちの日常でも言えることではないでしょうか。例えば、いつも人に親切でどんなに評価の高い人物であっても、ただの一回どこかで不親切な態度を取ってしまえば、その評価は一気に落ちてしまいます。また、長年かけて一つひとつ丁寧な仕事をして得てきた信用も、たった一つの不祥事でもあれば、その信用は一気に失墜してしまいます。長年苦労して積み上げてきた百の功績があったとしても、たった一つの不徳により崩れ落ちてしまうのです。そのためにも、私たちは一つでも不徳を致さないように努めることが大切です。

 一方、反対の立場にある時はどうでしょうか。私たちは人の良い所を見つけるよりも悪い所の方を多く見てしまう。良い所は見つけようと努めなければ見つからないのに、悪い所は見つけようとしなくても目につくものです。また、人の良い所を褒めるよりは、悪い所ばかりを指摘し、悪口を言ってしまいます。たとえ百の功績があったとしても、それを称えることはせず、一の不徳の方をつついてしまうのです。

 人から見られる立場にある場合は不徳を作らないこと、逆に人を見る側にある場合は不徳をつつかないこと、どちらの立場にあったとしても私たちは互いの良い所を褒め合う関係、互いに感謝の心を伝え合う関係でいたいものです。そうすれば、互いが衝突することはなくなります。そして、それがお互いの徳を積んでいくことになるでしょう。さらには、そうした関係が世界を平和へと導いてくれるのではないでしょうか。

合掌

(日高誠道)

 

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