今月の法話

■「希薄」【2023年4月の法話】

 

 昭和の時代より国民的アニメとして知られる「サザエさん」。三世代家族七人が揃って何気ない日常の出来事を語りながら食卓を囲む風景が印象的であり、そこがサザエさんの象徴ともいえます。しかし多忙な現代社会において、家族全員揃って食卓を囲む家庭、居間で家族団欒する時間を持つ家庭がどれだけあるでしょうか。親の仕事の都合、子供の学習の都合などで、家族が揃って食事をすることは稀であり、また家族の中ですらプライバシーを大切にし、個々の部屋で過ごす時間の方が長いという家庭も多いのではないでしょうか。

 また私が小学生の頃、もう三十年近く前の話です。避難訓練後、校長先生が「もし災害等が起こった時、隣の家のおじさんおばさんがどこの部屋で寝ているのか常に気にかけ、何かあった時には皆が助ける気持ちでいてください」と言われました。しかし現代では、隣人の寝床がどこか、ひいては隣家の間取りなど知ることはほぼないでしょう。寧ろ、他人に知られることが犯罪に繋がると恐れられがちです。さらには隣人がどんな人か、顔もまともには知らないということも少なくはないでしょう。

 「サザエさん」の風景が自然であった時代に比べ、家庭の中でも、近所との関係も、人と人との繋がりが希薄になりつつあるのではないでしょうか。

 今回、全国的に大きな被害を出し、人々を震撼させている特殊詐欺事件。私たちが暮らす広島やその近郊でも大きな被害があり、身近で起こった事件に私たちはより不安や恐怖を覚えました。主犯格とされる人物たちが逮捕、国外から移送されたニュースは連日大きく取り上げられました。とある番組のなかで、犯罪心理学専門の方の被疑者たちに関するコメントが私の胸にひっかかりました。それは「今回の事件では其々に役割分担をすることで、被疑者たちには『罪悪感の希薄』があるのではないか」というものです。罪悪感の希薄というものがあるならば、このような理屈は通るはずもありませんが、被疑者たちからしてみれば、実行犯は「指示されたからやっただけ」、指示役は「指示を出しただけ」という理屈になるのです。指示をされただけならば何をやっても良いのか、指示を出しただけならば罪はないのか、そんなはずはありません。また、今回の「闇バイト」なるものの募集も携帯サイトで行われたと言われています。リアルな人との繋がりは希薄なままに犯罪目的に人が集っているのです。

 被疑者たちに罪悪感の希薄をもたらし、そこから起こった凄惨な事件。事件の背景の一因として、家庭でも近所などの身近なところでも、リアルな人との繋がりが希薄になりつつあることが問題と言えるのではないでしょうか。其々の家庭の事情、プライバシーの問題・個人情報の保護の観点など社会の様相などから、一概には言えませんが、私たちはSNSだけでないリアルな人との繋がりをもう一度しっかり見直すべき時にあるのではないでしょうか。希薄は、無関心にも繋がる気がします。社会全体でそうした人との繋がりを取り戻せた時、このような犯罪は起こりにくくなるのではないでしょうか。人との繋がり=ご縁を大切にしたいですね。

合掌

(日高 誠道)

 

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